明るくおおらかな気持ちで制作

鮮やかな緑広がる田園風景の中を染織作家・鷲見千春さんの工房「布乎舎(ののこや)」へと向かった。

栗のイガなどで染めたというナチユラルカラーの服に身を包んだ鷲見さんに、にこやかに迎えてもらう。手機織りのほか植物染めや、自作の布で布小物も制作。手織りの布は着るたびに柔らかくなり体になじんでいく、「劣化ではなく変化していく日々の発見が魅力」といとおしそうに話す。

絣(かすり)用の糸を染める際にくくる、くくり糸を活用した作品は偶然生まれる色合いが得も言われぬ表情を描き出す。

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30代半ば、将来を考え、「興味あることをやってみたい」と思っていた鷲見さん。

弓浜絣(ゆみはまがすり)後継者養成研修第2期生の募集を知り見学会へ足を運んだところ、「心をつかまれ、やってみたいと思った」。研修生として、織りの技術だけでなく綿の栽培や藍染め、販売の基礎までも幅広く学んだ。

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研修で指導を受けた当時80代の嶋田悦子さん(鳥取県無形文化財「絣」保持者)の姿にも魅了され、試行錯誤しながら自分で一歩一歩積み重ねていけるのはいいなと感じた。

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作品に制作時の心持ちが表れるからと、明るくおおらかな気持ちで制作することを心がける。もちろん丁寧に作るが、「カチッとしすぎず、面白がってもらえるものを作りたい」。その思いが形になったような「福福HAPPY松竹梅文様」は、福やHAPPYなどの文字が散りばめられ、見ているだけで楽しくなってくる。

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弓浜絣の伝統的な柄がベースにありつつ、地元の景色なども図案化して布に織り込み、地元の空気感も伝える。
研修生時代の師である嶋田さんに、「立ち返るものを持ちなさい」と言われたことは印象深く、新しい図案やアイテム作りにチャレンジしながらも「自分の根っことなるものを見失わないように、大切にしたい」と、土台は揺るがない。  
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自分で織った布を使った木目込み干支(えと)人形作りは来年の午(うま)年で12年目を迎え、「作る楽しさを教えてもらった」というが、最近は布自体が好きになり「小布から着尺まで、その人によっていろいろな用途に使える布を制作していきたい」と前を見据える。

価値ある弓浜絣はなくしてはいけない。産地として、事業者だけでなく愛好者らとも協力してもの作りをしていきたいと、伝統の継承にも努めていく。
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プロフィール

すみ・ちはる 1977年生まれ。
2010から13年まで、弓浜絣後継者養成研修2期生として、伯州綿栽培から藍染め、織り、販売の基礎など、幅広く学ぶ。13年、研修修了後に工房・布乎舎を米子市街地に開く。19年に米子市淀江町に移転し、手機織り、植物染め、布小物制作を手掛ける。25年11月7~24日は海とくらしの史料館(境港市)での弓浜絣関連イベントに参加する。

各種情報はインスタグラム「@nonocoya.sunmin」で。 

 
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